プラズマ遺伝子導入の機序解明

 遺伝子導入は、細胞に任意の遺伝子を導入し、新たな形質を発現させる技術です。従来の手法には細胞への負担や高コストなどの課題があり、新たな手法の開発が求められています。そこで本研究室では、低侵襲かつ高効率が期待されるプラズマ遺伝子導入法に注目しています。
 プラズマは電離気体で、細胞に作用することで外部分子の取り込みを誘発し、遺伝子導入効率を向上させます。ただし、そのメカニズムの解明が課題となっています。現在、プラズマが活性酸素種(ROS)と電流を通じてエンドサイトーシスを促進し、分子や遺伝子が細胞内に輸送されることが明らかになっています(下図)。本研究では、生物学的な解析だけでなく、工学部・電気電子工学科として、電気的な細胞内外の等価回路網の構築や装置開発を通じた効率化にも取り組んでいます。
 プラズマ遺伝子導入法の実用化により、遺伝子治療やiPS細胞を用いた再生医療など研究から臨床まで大きく貢献できます。電気電子系の研究成果は直接人を救うことが多くはない中で、医療と直結する本研究は、人を助ける可能性を秘めた意義深い挑戦です。

プラズマ遺伝子導入の医療への応用

 医療への応用として遺伝子治療に関する研究を行なっています。 現在、エレクトロポレーション法などの遺伝子導入法が一般的に使用されているが、ガン化等の副作用により安全性に懸念点があると言われています。そのため、実際の医療にはがん、アルツハイマーなど重篤な病気のみしか承認されていません。しかし、プラズマ遺伝子導入法は、細胞およびDNAに対して低侵襲でガン化等のリスクが少ないなどの理由から、安全に対する優位性があり遺伝子治療の実用化に期待されています。
 現在は先行研究として、Ⅰ型糖尿病に対する遺伝子治療の確立を目標に、治療効果の確認を進めています。現在、Ⅰ型糖尿病は1日4回のインスリン注射による対症治療が一般的で患者に大きな負担がかかります。一方、遺伝子治療は、数週間〜数ヶ月に1回の治療で良いことから、遺伝子治療の確立により患者の負担が格段に軽減されQOL向上が期待できます。

【基礎研究】 気液界面プラズマ

 私たちの研究室で行われているプラズマを用いた植物・細胞への遺伝子導入も含め、液体を含んだ層へプラズマを照射する研究は、医療・バイオ・農業・材料など様々な分野で行われています。これらの研究では,気相から液相に対して放電をさせるプラズマが多く用いられていて、このような気相と液相の界面で生成するプラズマを気液界面プラズマといいます。
 気液界面プラズマでは、放電により生成される化学活性種(ラジカル)が反応において重要な役割を果たすと考えられています。しかし、現在主に行われている研究では照射したプラズマに対して液相が大きすぎるため活性種が有効活用できていないのではないかという問題があります。そこで我々の研究室では、液相のスケールをミストや液滴を用いて微小化しプラズマにより生成される活性種と液相のスケールの関連性について定量的に評価し,プラズマ気液界面反応の基礎を学術的に解明することを目的としています。
 下の動画は液滴にプラズマを放電させたときに化学活性種(ラジカル)が発生するときのヨウ素デンプン反応の様子です。液滴が青紫になっていることからラジカルが発生していることが確認できます。